classics-disco’s blog

西洋古典学を学ぶ一学生のブログ

2019-01-01から1年間の記事一覧

悩みに悩み、ムーミン谷へ行く

悩みについて どんな人でも悩み苦しんだ経験はあるだろう。その悩みの内容や、どのようにしてそれに取り組むかは文字通り千差万別だが、恐らく多くの人は悩みを解決するために「何かに頼る」のではないだろうか。ある人は酒に頼るかもしれないし、ある人は恋…

愛について語る夜――哲学Bar

根源的な問い 我々はどのようにして「哲学」をする事が出来るのだろうか。この問いは我々を哲学の始まりの地、ギリシアへと運んでゆく。そこにいた最も有名な哲学者、ソクラテスは町を歩き回ってありとあらゆる市民たちを捕まえては対話をしていたという。彼…

教養人への憧憬と西洋古典学

レイトン教授という原初体験 恐らくだけど、僕の中での「教養人像」の原初体験は小学生の時に流行った「レイトン教授シリーズ」のレイトン教授だと思う。日常の何気ないことを鋭く観察し、推理して、弟子のルークと楽しく謎について対話する姿は僕にはとても…

『ソクラテスの弁明』10, 19, 31章 勉強ノート

『ソクラテスの弁明』の講読は、「古くからの告発に対する弁明」が終わるのが10章なのでちょうどキリがいいしそこまでにしようとなっていたところ、もう少しやれそうだということで「ダイモーン」が登場する19, 31章を抜き出して読むことになった。講読をや…

『ソクラテスの弁明』7~9章 勉強ノート

『ソクラテスの弁明』は1~10章で取り敢えず区切りがついているのですが、「ダイモーン」に関するところを取り上げて1~10+19, 31章を読みました。10, 19, 31のノートを作って、取り敢えず本チャレンジを終えます。 drive.google.com

『ソクラテスの弁明』4~6章 勉強ノート

ギリシア語の形態論は僕には複雑で中々身に付けるのは難しく感じるけれども、出来るだけ意識をそれに向けてノート作成するように努めた。おかげで調べる手間がぐっと増え、辞書と文法書とにらめっこする日々が続いているが、語学はやはりこういう地味で味気…

狸を描くことについて——『平成狸ぽんぽこ』より

擬人化という営為 人が動物や植物などの非人間的存在をあたかも人間かの如くに描くのは古来から現代までずっと行われていた。例えば古代ギリシアではイソップ物語において様々な動物が擬人化されている。「ウサギと亀」、「酸っぱい狐」などの物語を知らない…

『ソクラテスの弁明』1~3章 関西弁訳

軽い気持ちで『ソクラテスの弁明』を関西弁訳してTwitterにあげてみたら予想以上に多くの人がほめてくれてとっても嬉しかった。今まで生きててあんなに多くの人の賞賛を受けたのは初めてかもしれない、と思うほど。でも悔しいことに既に『ソクラテスの弁明』…

『ソクラテスの弁明』1~3章 勉強ノート

夏休みを利用してチャレンジ中の『ソクラテスの弁明』の勉強ノートを頑張って更新していきます。前載せたのと被るけど、今日は1~3章までを。翻訳も後で載せます。 drive.google.com

『ソクラテスの弁明』勉強ノート&翻訳①

夏休みに入りました。大学の友人たちは海外に行ったりバイトに勤しんだりしてるんですが、僕は山奥でギリシア語の修業をしています。正確にはお世話になっている名誉教授の家に住まわしていただき書生まがいのことをしながら、夜にはギリシア語を教わってい…

眠れぬ夜の独り言──教育について

さっき珈琲を飲んだせいか眠れない。だから寝るのを諦めて、雨の音でも聞きながら久々にブログを書くことにしました。全くとりとめのないことを書くつもりなので、暇じゃない人には(そんな人はこんなブログ読まないだろうけど)おすすめできません。 実はも…

ギリシア語ビギナーの道②

高校の時の古文の授業をふと思い出す。──古文の先生(なぜか僕のことを滅茶苦茶嫌っていた)は言った。「『みる』『あふ』という動詞は『結婚すること』を意味します。覚えておくように」彼は黒板にチョークでそう書いた。そうして授業は進んでいく。 「えっ…

西洋古典文学の「場」

ひょんなことから今、懇意にしていただいている教授の別荘に逗留中だ。君、僕の別荘はひどく静かな所で勉強に最適なんだけど、GWの間泊まっていかないかい、その代わり洗濯や掃除、庭の手入れなんかをしてほしいんだがと頼まれ二つ返事で承諾した。実際、こ…

出会いと学び

先日僕がTwitterやこのブログでプラトンの『クリトン』を読んで勉強していることを書いたらある人が「うちの大学で『饗宴』を読む授業があるんですが来ませんか」と誘ってくださった。何とありがたい!と思いながら僕は初めて他大学の授業に参加することにな…

ギリシア語ビギナーの道

先学期を以てようやく、僕は初級文法の授業と、新約ギリシア語を履修し終えた。春休みに入ったので、何か別のギリシア語で書かれたものを読んでみようと図書館へ行き、まず僕が手に取ったのは『イリアス』。古びた『イリアス』を開いてみた。無理だった。コ…

「無知の知」という誤謬──「自分が知らないということ」を知る?

はじめに 先日納富信留先生の『哲学の誕生』(ちくま学芸文庫)をとても面白く読み終えました。この本はソクラテスとは何者か?という問いを中心に、古代ギリシアにおける哲学の誕生そのものを論じています。本書は、ソクラテスが毒薬を飲み、残された周りの…

恋に焦がれるエコーとクールなナルキッソスの神話

ラテン語の初級文法を春~冬学期にかけて終えたので、力試しにオウィディウスの『メタモルフォーセース』(変身物語、転身物語などと訳されている)を読んでいる。これまで3.339~401まで読み進めた。ここまでの話をざっくり要約してみる。 ある所にナルキッ…

ギリシア悲劇の解釈を巡る論争──「イオカステはいつ知ったか」という問い──

はじめに 僕は先学期に履修していた「西洋古典文学」という授業の期末レポートとして「イオカステはいつ気づいたか」と題するレポートを書いた。その時に特に参考にしたのは川島重成『アポロンの光と闇のもとに』(詳細下記)という本で詳しく論じられている…

エコーの繰り返しと翻訳

現在僕はドイツ語の勉強として『星の王子さま』をドイツ語訳で読み進めながら、同時にラテン語の勉強としてメタモルフォーセースのナルキッソスとエコーの箇所を訳している。僕が今訳すのに困っているのは、ナルキッソスとエコーの会話部分だ。ご存知のよう…

『ホメロス「イリアス」への招待』②

前回に続き『ホメロス「イリアス」への招待』を読んだ感想です。初めはきちんと論文をまとめて内容を紹介する気だったのですが、結構時間かかりそうなので主観的な感想を大目に綴ることにしました。 アキレウスの怒りと人間性の輝き 「アキレウスの怒り」と…

『ホメロス「イリアス」への招待』①

先日出版された、川島重成、古澤ゆう子、小林薫*1編『イリアス「ホメロス」への招待』(以下『招待』と勝手に略称)を読んでいる。僕はこの本の出版記念会のちょっとした手伝いをした褒美としてこの本を賜った。大変ラッキーである。勿論先生としては、「こ…

春休み──花粉からの逃走

長ーーい冬学期がようやく終わった。今学期はなかなかハードだった…(まあ毎学期そう思ってるわけだが)。特に「旧約聖書概論」はグループワークだけじゃなくリーディングの量も多くて課題こなすのが大変でした!でも、今まで取って最もよかった授業の一つ。…

語学の体力

僕はこの春にラテン語の授業を履修し始めた。ICUには第二外国語のカリキュラムがないので(多くの学生は英語しかやらない)、僕の第二外国語はこうしてラテン語になってしまった。春学期の「ラテン語Ⅰ」という授業は15~20人程度いたのだが秋学期の「ラテン語…

眼潰しは幸せか?──『春琴抄』と『オイディプス王』

お師匠様私はめしいになりました。もう一生涯お顔を見ることはございませぬ 佐助それはほんとうか 佐助はこの世に生まれてから後にも先にもこの沈黙の数分間ほど楽しい時を生きたことがなかった 『春琴抄』より なにとて眼明きであることがあろう、眼が見え…

サイエンスの語源と「アーツ・サイエンス」

僕の通うICU(国際基督教大学)は一学部一学科で、2年の最後に専攻を選択するという制度になっている。これは「リベラル・アーツ教育」と称されている(それについては classics-disco.hatenablog.com を参照)。学部の名は「教養学部」なのだが、学科は「ア…

アートの語源とは

「アートの意味は?」と訊かれて言葉に詰まる人は少ないだろう。アートと言えば「芸術」、「芸術作品」を指すことくらい誰でも知っているし、感動するものを見れば、「これはアートだ!」なんて言ったりする。勿論、普通に暮らす分にはそれで何の問題もない…